R is for Rumor

~Rは流言のR~

そば大戦争


そば通が言うには、噛まず、するっと飲み込むとのが粋な食べ方だとか*1。喉越しこそが蕎麦なのだ、と。

しかし、ある研究によれば、そばは噛んだほうが「そばポリフェノール」という栄養素をより効率的に摂取できるらしい。

そうなれば、「健康より喉越し」派と、「喉越しより健康」派が対立するのは必然であろう。


健康より喉越し派は言う。

「なーにが『そばポリフェノール』だ。早死にが怖くてそばが楽しめるかってんだ」


しかし、喉越しより健康派はこう切り返すだろう。

「あいつらは見栄を張ってるだけさ。喉越しなんて、健康のことを考えれば刹那的な快楽にすぎないじゃないか」


話は絶望的なまでに噛み合わない。

こうなると、そばで派閥争いである。例えば、ある会社では喉越し派閥が優勢だとしよう。創業者である頑固な会長がそのトップにいる。一方、社長は健康派なのだが、その力は弱く、なんとか切り返しを図りたい。

昼休みは社員たちにとって試金石となる。うっかりそばでも注文しようなら大変だ。そばを食べようとすると、周りの視線が釘付けになる。「そばを噛んで食べようが、飲み込もうが、個人の問題じゃないか」などとしごくまっとうなことを言う人もいるだろうが、誰も聞き入れたりはしない。それだけではなく、ある日突然左遷されていたりする。果てしない諍いである。

だが安心するがいい。そんな重苦しい空気は、ある日、突然に解決する。

なぜなら、喉越し派は健康に気を配らない人たちなので、ばたばたと倒れてしまうからだ。

健康派の勝利――社長たちは気勢をあげるだろう。「これからは我々の天下だ!」と。

しかし、喜びは続かない。長く踏みにじられてきた心労と、突然の歓喜に体が参ってしまい、健康派もまた倒れてしまうのである。そばポリフェノールのような些末なことにこだわるような性格だと、こうなる。


そういうわけだから、けっきょく誰もいなくなるのである。過度なこだわりは身を滅ぼすのである。人生中庸が大事なのである。


この年の瀬に、僕はいったい何を書いているのだ。

*1:そばの種類によって異なるらしいが。